2012年12月5日水曜日

地獄への道──「入道死去」

今回の最期のお話は、清盛の壮絶な最期を描いた「入道死去」です。

12月に入ったので、そろそろ大河の方でも清盛の最期をやるのではないかしらんと思い、ならば皆さんにも原文で味わっていただこうとこの演目を選びました。

さてまずはあらすじを見てみましょう。

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清盛の独裁ぶりは貴族・寺社・武士などから大きな反発を受け、平家はいよいよ孤立するようになりました。伊豆の流人源頼朝に続き木曽義仲が立ち上がり、諸国に待機していた反平家の勢力は次々と蜂起。日本全国、反平家ののろしが上がり、この世は今にも滅びてしまうのではないかと人々は不安に思いました。東国・北国での反平家の勢力を追討すべく、2月26日清盛の二男宗盛は自ら大将軍として出陣することを宣言。しかし出陣前夜、清盛が急に発病したため、出発は延期となります。清盛発病の噂はたちまち都中に広がり、平家お膝元の六波羅でも「それ見たことか」と囁かれました。

清盛の熱は身を焼くほどの異常なもので、周りの人間が4、5間以内に入ると熱くて耐えられないほどでした。清盛は「あたあた」とうわごとを言うばかり。比叡山から汲んできた水風呂に入って冷やそうとすれば水は沸騰して湯になり、水をかければ焼けた鉄に水をかけた時のようにたちまち黒煙となって殿中に渦巻きました。まるで法蔵僧都が見てきたという、八大地獄のひとつ、焦熱地獄のような光景でした。

そんなとき、妻、二位殿が身の毛のよだつ恐ろしい夢を見ました。猛火の車が邸の中に入ってきて、地獄の閻魔大王の使者たちが、奈良の大仏を焼いた罪を受けて無間地獄に堕ちる清盛を迎えに来るという夢でした。夢から覚めた二位殿は、金銀財宝を残らず神仏霊社に寄進して祈らせましたがその効果はありませんでした。
清盛の死を悟った二位殿は、耐え難い熱さでしたが、枕上に寄り添って、遺言があるか訊ねると、清盛は「思い残すことは何もないが、頼朝の首を見なかったことだけが無念である。自分が死んだらお堂を建てたり供養をするな、そのかわり頼朝の首をとり、我が墓の前にかけよ。それが一番の供養だ」と罪深い言葉を述べました。

閏2月4日、清盛は悶絶しながら絶命します。享年64歳。老い死にと言うほどではないけれど、宿運尽きたのでもうどうしようありません。忠節を誓った臣下は数多くいましたが「死」という目に見えない敵に対してはどうすることも出来ませんでした。日頃犯した罪だけが従者となって、たったひとり地獄へ旅立っていきました。同7日、愛宕で火葬にし、遺骨は摂津国の経の島に納められました。日本全国に名をあげ、威をふるったひとであったのに、その身は煙となって都の空へ立ち上り、屍は経の島の浜辺の砂となって空しい土となったのです

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…まさに、たけきものもついには滅びぬ。諸行無常です。

このお話、私は始め、清盛は現代医学で言うとどういう病気で死んだんだろう??と不思議に思いました。発病してから10日くらいで高熱で死んでいく。他の人にうつる様子はないので流感ではなさそうだし…内臓は悪くなってないし…。水は沸騰しちゃうし、熱くて人が近づけないし〜〜。それに、奥さんの二位殿が見た地獄の夢に対する恐ろしがり方が尋常じゃなく、そのあたりもふくめていまいちピンと来なかったのです。

で、調べました。地獄のことを。(図書館でも本をあれこれ借りましたが、ウィキペディアがかなり分かりやすいのでぜひご一読下さい。)

そうしたら、地獄がものすごくシステム化されていて面白いのです!(っていったら罰が当たる??)当時は地獄の存在を皆が本当に信じていた時代でした。殺生、ウソ、邪淫、飲酒、親殺し、僧侶殺しなど、犯した罪の多さ・大きさに合わせて、落ちていく地獄のレベルは決まっており(八大地獄)、それぞれの地獄で受けるおそろしい拷問の種類(剣の山で引き裂かれたり灼熱の炎で身を焼かれたり…それはもうすごいんです)なども決められていました。

そして、何よりも興味深かったのが、それぞれの地獄には寿命が定められていて、一番軽い地獄でもなんと人間の時間に換算して1兆6653億年!!一番重い無間地獄に至っては、その期間1中劫=半永久的!!!に、無間地獄から次へ転生することが出来ないのです。ぎょえ〜〜〜!!!つらい、つらすぎる!!ってことは、清盛は今現在まだ無間地獄に滞在中?今行ったら会えるってこと?なんて思いながら、解説をよくよく読むと、無間地獄に落ちるのに真っ逆さまに落ち続けて2000年かかると書いてあるではありませんか!!清盛まだ落下中です。無間地獄にたどり着いてません。

そして、焦熱地獄のところにこうも書いてあるではありました。「この地獄に落ちる罪人は、死の三日前から中有(転生待ち)の段階にも地獄と同じ苦しみを受ける。」これか〜!!つまり、清盛は己が落ちていく無間地獄の苦しみを生きながらうけつつ死んでいったわけですね。なんだかもう読み終わってぐったり。。納得です。

面白がって書きましたが、地獄の様子をリアルに想像し、その存在を信じていた時代、死んださきに恐ろしい苦しみが待っているのはものすごい恐怖だったわけです。重衡もきっとそうですね。

だから人々はこの世で行い正しくあろうと努めたのです。

本から目を上げ、ふと、テレビのニュースに映った政治家の顔を見ながら、この人達に「地獄の思想」をもう一度教育してやったら、もうすこしまともになったかも知れなかったのに、と思いました。


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以上、今回のあらすじと見どころでした。ご参考までに。至らぬ点はご容赦願います。
では、劇場でお待ちしております!



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これはもう語りではない、古典の言葉が躍動する!分かる!美しく衝撃的な舞台
「平家物語 語りと波紋音」第3回公演
祇園精舎 足摺 千手の前 入道死去
語り:金子あい 波紋音:永田砂知子

構成・演出:金子あい 音楽:永田砂知子 美術:トクマスヒロミ 照明:横原由祐 
音響:黒沢靖博 舞台監督:寅川英司+鴉屋 衣装:細田ひなこ 主催:平家物語実行委員会 


【日時】2012年12月6日(木)昼の部14:00開演/夜の部19:00開演(上演時間75分)
【会場】座・高円寺2 http://za-koenji.jp JR中央線 高円寺駅 北口 徒歩5分

【チケット料金】 前売3,700円/当日4,000円/高校生以下1,000円(全席自由)
  ※当日券は開演1時間前より販売。高校生以下割引は平家物語実行委員会のみで取扱。
  ※未就学児のご入場はご遠慮下さい。※開場は開演の30分前。

【チケット取扱・お問合せ】
 平家物語実行委員会:090-6707-1253 heike@parkcity.ne.jp

 ちけっとぽーと:03-5561-7714(平日10:00〜18:00)http://www.ticketport.co.jp/
 渋谷店(SHIBUYA109 2F)池袋店(池袋パルコ6F)銀座店(銀座ファイブ1F)
 東京店(大丸東京11F)新宿店(伊勢丹会館B1F)吉祥寺店(アトレ吉祥寺B1F)
 横浜店(横浜駅東口ポルタ)大宮店(ソニックシティホール)



2012年12月4日火曜日

物思いの種──「千手前」

清盛には多くの子がいましたが、平家物語に登場する主な息子達をざっくりご紹介しましょう。

長男の重盛は、武勇に長け誠実温厚。しばしば父清盛をいさめ、全体を見通す優れた人物でしたが、平家全盛の時期であるにもかかわらず、父の悪行に一門の運命を予見し熊野権現に祈って自ら命を縮めて死去。

二男の基盛は、夭逝したため平家物語では登場せず。

三男(平家物語では二男)の宗盛は、清盛の死後、家督を継ぎ一門の棟梁となりますが、性格は凡庸・臆病。義仲軍との交戦を避けて早々に都落ちを決定し、その際に法皇を逃したり、壇ノ浦で入水する勇気もなく、虜囚となってからもさかんに命乞いをし、周りからつまはじきされたり平家物語でもその無能さが強調されています。

四男(平家物語では三男)の知盛は、知謀の将として知られ。京都の防衛から壇ノ浦での滅亡に至るまで一門の軍事面での中心的存在として活躍しました。

五男(平家物語では四男)の重衡は、武勇の将として知られ、数々の合戦で勝利を収め、南都(奈良)焼き討ちの大将軍でもありました。一ノ谷で生け捕りにされ、京中を引き回された後、頼朝の申請によって鎌倉へ下向。一年後、南都大衆の引き渡し要求によって奈良へ上り、木津川のほとりで斬首。管弦にも優れユーモアもあり女性にももてました。

(以下略)


さて、本題です。

「千手前」は、この重衡が捕らわれて鎌倉に下った時の話です。

まず、あらすじを見てみましょう。

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朝敵となった三位中将重衡は、鎌倉で兵衛佐頼朝と対面します。南都攻めについて尋ねられた重衡は、焼き討ちは清盛の命令でも重衡の咄嗟の判断でも無かったといい、平家の運命の傾いたことを語り、早く首を刎ねるよう求めます。その毅然とした態度に梶原景時をはじめとする並みいる敵将が感服しました。頼朝は南都から引き渡しの要求があるだろうと、伊豆国の住人、狩野介宗茂に重衡を預けました。狩野介は情け深い者で、重衡は思いがけなく手厚い待遇を受けます。重衡を様々にいたわりお風呂を用意します。「道中の汚れを落としてから処刑するのだろうか」と重衡がいぶかしんでいると、20歳くらいの見目麗しい女性と14、5歳の少女が湯浴みの世話をしに湯殿に入ってきます。「なんでもお望みのことを承って私に申せ」と頼朝から遣わされました、というと重衡は「今更申すことはないが、ただ出家がしたいだけだ」と言います。

その夜、くだんの女性が琵琶や琴を持たせて酒宴の席にやってきて世話係の宗茂とともに重衡に酌をします。興なげな重衡に、千手は「羅綺の重衣たる情無い事を機婦に妬む」という詩を朗詠します(この詩を朗詠すれば、詠ずる人も聞く人も守ろうと誓いの込められた詩。か弱い舞姫にとってはその身にまとう薄衣さえ重いので、なぜこんな重い衣を 織ったのかと、機織女の無情を恨むほどだ、の意。重い罪を背負った重衡に同情しつつ、後の句では管弦が長すぎて終わらないので楽人を怒ると歌われており、千手は早く終わればいいと思っているのではありませんかと暗に重衡を気遣った)。しかしながら重衡は、「この世では自分は見捨てられた。一緒に歌う気にならない。罪が軽くなるような歌なら」と言うと、千手は「十悪と言えども引摂す(十悪を犯した罪人も、仏は導いて下さる)」「極楽願はん人は皆、弥陀の名号唱ふべし」などと心を込めて歌います。すると 重衡は盃を傾けました。続いて、千手が琴で雅楽の「五常楽(ごじょうらく)」という曲を弾くと、重衡の心も少しはほぐれたのか、「今の自分には“後生”楽とも聞こえる。では往生を急ごう」などと洒落て、自ら琵琶をとり「皇麞(おうじょう)の急」を弾きました。
夜も更けて、重衡の心がだんだん澄んでくると「東国にもこんなに優雅な人がいたのか。何でも良い、もう一曲歌って欲しい」と所望します。千手は「一樹の陰に宿りあひ、同じ流れをむすぶも、みな是先世のちぎり(同じ木陰に身を寄せるのも、同じ川の流れを手ですくって飲むのも、 全て前世からの契りである)」という白拍子を歌い、重衡も「灯闇しては、数行虞氏之涙」(楚の項羽が漢の高祖に敗れた際、その中で愛する后と別れる悲しさを歌った詩を朗詠しました。
夜も明けるので、千手前は重衡のもとを辞して帰り、持仏堂で法華経を読んでいる頼朝のところへ行きます。頼朝はほほえみながら「どうだ、よい仲人をしてやったろうが」といい、「平家の武人は戦さのことばかりと思っていたが、あの重衡の琵琶や朗詠など誠に優雅な人であったよ」と言いました。
千手はその夜のことが物思いの種となったのでしょうか。重衡が処刑されると、出家して信濃国善光寺にこもり、重衡の菩提を弔い、自分も極楽往生しました。

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このお話、いってみれば、千手と重衡の一夜の恋のお話なのですが、さまざまな要素が含まれています。

重衡は平家随一の武将として、これまでにも様々な戦に勝ってきました。言い換えれば多くの人を殺してきたわけですが、最大の罪は奈良の僧侶達の反乱を鎮めるために攻めていって、寺院と大仏を焼き払ってしまい、1000人以上の僧侶と一般人が犠牲になったことです。暗闇の戦で明かりを取るために民家に火を付けたところ風が強くて延焼してしまったのです。当時僧侶を殺害することは一番重い罪で無間地獄に落ちるとされていました。

一ノ谷の合戦では、共に自害すると誓い合った乳母子に裏切られ、生け捕りになってしまいます。源氏軍は、重衡の身柄と平家が持って行った三種の神器とを交換しようと八島に陣を構えている宗盛に伝えますが、一門は断腸の思いで拒絶します。重衡は味方からも見捨てられました。

すべての望みを絶たれた重衡は出家を願いますが後白河法皇は許可しません。かねて親交のあった法然との対面が許された重衡は、南都焼き討ちは立場上避けることが出来なかったが、大将として罪を負う、しかし、このような悪人でも助かる方法があれば教えて欲しいと涙ながらに訴えます。地獄の実在を疑わなかったその時代、重衡は己の罪の重さに恐れおののいていたのです。

千手は手越(今の静岡市内)の長者(遊女のかしら)の娘で、美人で心優しい娘なのでこの2、3年頼朝の御所で召し使われていました。彼女はとても控えめで、べらべらと喋るようなタイプではありません。しかし、酒宴では、少しでも重衡の心の苦しみが軽くなるようにと、ふさわしい歌を選び、心を込めて歌うのです。重衡はこれほど自分の心を分かってくれる人がいたのかと驚いたのではないでしょうか。敗軍の将のすでに死後の世界しか求めていない貴公子が、行きずりの一夜に思いがけない心の優しさに巡り会うこの場面は、平家物語の中でももっとも美しいものの一つと言えます。

この、千手と重衡のやりとり、会話はほとんどなくて朗詠のやりとりそのものが会話になっています。なんと優雅なことでしょう。

そんな様子を頼朝は「立ち聞き」していて、翌朝、千手に(お前、惚れたな)という感じで言うところが、私は密かに好きです(笑)。


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これはもう語りではない、古典の言葉が躍動する!分かる!美しく衝撃的な舞台
「平家物語 語りと波紋音」第3回公演
祇園精舎 足摺 千手の前 入道死去
語り:金子あい 波紋音:永田砂知子

構成・演出:金子あい 音楽:永田砂知子 美術:トクマスヒロミ 照明:横原由祐 
音響:黒沢靖博 舞台監督:寅川英司+鴉屋 衣装:細田ひなこ 主催:平家物語実行委員会 


【日時】2012年12月6日(木)昼の部14:00開演/夜の部19:00開演(上演時間75分)
【会場】座・高円寺2 http://za-koenji.jp JR中央線 高円寺駅 北口 徒歩5分

【チケット料金】 前売3,700円/当日4,000円/高校生以下1,000円(全席自由)
  ※当日券は開演1時間前より販売。高校生以下割引は平家物語実行委員会のみで取扱。
  ※未就学児のご入場はご遠慮下さい。※開場は開演の30分前。

【チケット取扱・お問合せ】
 平家物語実行委員会:090-6707-1253 heike@parkcity.ne.jp

 ちけっとぽーと:03-5561-7714(平日10:00〜18:00)http://www.ticketport.co.jp/
 渋谷店(SHIBUYA109 2F)池袋店(池袋パルコ6F)銀座店(銀座ファイブ1F)
 東京店(大丸東京11F)新宿店(伊勢丹会館B1F)吉祥寺店(アトレ吉祥寺B1F)
 横浜店(横浜駅東口ポルタ)大宮店(ソニックシティホール)


2012年12月3日月曜日

絶望か希望か──「足摺」

「足摺」は、かの有名な鬼界ヶ島で置いてきぼりにされてしまう俊寛のお話です。
能や歌舞伎、浄瑠璃の演目になっていますので、どこかでご覧になっている方も多いと思います。

俊寛が流罪になった原因「鹿ヶ谷事件」が起こったのが1177年。5月に発覚し6月には、藤原成経、俊寛、康頼が鬼界ヶ島に配流となりました。その1年後の1178年6月に清盛の娘で高倉天皇に嫁いだ徳子が懐妊、しかし体調が思わしくありません。その原因は南の島へ流したものたちの恨みによるものなので早く召し帰せということで大赦が行われ、成経と康頼が都へ召還されるのです。

鬼界ヶ島は南海の孤島で火山の煙がもくもくして硫黄がごろごろ、田んぼも畑もなく、住人の言葉はぜんぜん分からないところだと平家物語では書いています。

あらすじを見てみましょう。

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お話は都からの使者が喜界が島の浜辺にたどり着くところから始まります。


都からの使者の上陸に俊寛は大喜びしますが、赦免状に俊寛の名前はありませんでした。そもそも俊寛は、清盛に世話になった恩がありながら、それを無為にして謀議のために山荘を提供したことなどから、清盛の怒りは収まらなかったのです。
自分一人が赦免に漏れたことを知った俊寛は、丹波少将成経につかみかかり、「こうなったのも、そなたの父、大納言入道殿が企てた謀反のせいだ」と喚きます。丹波少将は、「そのような様子を見ると帰る気持ちにもなりません。乗せて差し上げてでも都に上りたいと思いますが、都のお使いもだめだといいますので、お許しもないのに、勝手に3人で島を出たなんてことが都に聞こえたら、かえって良くないことになります。都についたら様子を見て必ず迎えを寄越すので、それまで待っていてください」と一生懸命慰めましたが、俊寛は人目もはばからず泣きもだえました。

いよいよ船を出そうとすると、俊寛は船に乗っては降り、降りては乗って、自分も船に乗りたいという様子をします。ともづなを解いて船を押し出すと、俊寛は綱に取りついて引かれていき、「せめて九州まで」と船に取りすがって懇願するが、手を引きのけられ、船は沖へと漕ぎ出していきます。俊寛は、子が母を慕うように浜辺で地団駄を踏みながら「乗せて行け、連れて行け」と喚き叫び、高いところに上って船に向かって手を振りますが、船は遠ざかるばかり。結局俊寛は泣きながら浜辺で一夜を過ごし、成経が都に帰って良いように取りはからってくれることもるかも知れないと僅かな望みをかけ、身投げをしなかった俊寛のこころは空しいものでした。

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この章段は短いものですが、無駄のないうえに非常に劇的に俊寛の心情や様子が描かれて名文中の名文と言われています。聴いていてもありありと目に浮かびます。だからこそ、能や歌舞伎の題材になったわけですが、このタイトルの「足摺」というのがまたうまいこと付けたなあと思います。これは足摺(もしくは磋跎)の地名にちなみ一人の僧が仲間が船出するのに岬で足ずりをしたという説話を作者がうまく取り入れたとも考えられていますが、ともかく大の大人が子どものように地団駄を踏むのです。思いのほどが痛いほど伝わります。中程の成経の困惑した様子もよく描かれていると思います。俊寛の気持ちは分かるけれど、余計なことをして自分たちの赦免を台無しにしたくない…。

この俊寛という人物は、法勝寺という大寺院の寺務職として80カ所余りの荘園運営にあたり、4、500人の召使いや眷属に取りまかれ権勢を誇っていました。この人の祖父の大納言は、余りに怒りっぽい人で、自分の邸の前を滅多に人も通さず、いつも中門に佇んで歯を食いしばって周囲をにらみつけていたそうです。(最近見かけなくなりましたが、昔は町内にそういうおじいさんがいましたね。ボール取りに行くのがおっかない家!)その孫だからか、俊寛も僧侶なのに気性が激しく驕り高ぶった人で、だからつまらない謀反に参加したのだろうと平家物語は描いています。

このお話には、「有王」と「僧都死去」という続きがあって、これはもう胸に迫る最期ですが、これはいずれまた。

気性の激しい不信心な俊寛ですが、やはり都に残された家族を思い、帰りたい。絶海の孤島に取り残される彼の心境はいかばかりか。。。。ちなみに、私、最初に能「俊寛」を見た時、すっかり俊寛はおじいさんだと思っていましたが、よくよく読んでみると、享年37歳。
やはり、無念であったろうと思います。

こうした人々の怨念が積もり積もって平家を祟ったと書かれています。

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これはもう語りではない、古典の言葉が躍動する!分かる!美しく衝撃的な舞台
「平家物語 語りと波紋音」第3回公演
祇園精舎 足摺 千手の前 入道死去
語り:金子あい 波紋音:永田砂知子

構成・演出:金子あい 音楽:永田砂知子 美術:トクマスヒロミ 照明:横原由祐 
音響:黒沢靖博 舞台監督:寅川英司+鴉屋 衣装:細田ひなこ 主催:平家物語実行委員会 


【日時】2012年12月6日(木)昼の部14:00開演/夜の部19:00開演(上演時間75分)
【会場】座・高円寺2 http://za-koenji.jp JR中央線 高円寺駅 北口 徒歩5分

【チケット料金】 前売3,700円/当日4,000円/高校生以下1,000円(全席自由)
  ※当日券は開演1時間前より販売。高校生以下割引は平家物語実行委員会のみで取扱。
  ※未就学児のご入場はご遠慮下さい。※開場は開演の30分前。

【チケット取扱・お問合せ】
 平家物語実行委員会:090-6707-1253 heike@parkcity.ne.jp

 ちけっとぽーと:03-5561-7714(平日10:00〜18:00)http://www.ticketport.co.jp/
 渋谷店(SHIBUYA109 2F)池袋店(池袋パルコ6F)銀座店(銀座ファイブ1F)
 東京店(大丸東京11F)新宿店(伊勢丹会館B1F)吉祥寺店(アトレ吉祥寺B1F)
 横浜店(横浜駅東口ポルタ)大宮店(ソニックシティホール)







2012年12月2日日曜日

政治家の我欲がこの世をだめにする──「祇園精舎」

いよいよ、今週木曜日に近づいてきました「平家物語」。

今日からあらすじと見どころを掲載していきます。

ぜひお読みになってから劇場にお越しください。


「祇園精舎」

平家物語はこの祇園精舎に始まり、祇園精舎に終わる…といってもいいかもしれません。

前回の公演をご覧になったある方が、「金子さんの祇園精舎は…あれだね、あの〜、無常感ていうの?そういうのがないね…」と遠慮がちに感想を述べられていました。

「そりゃ、そうでしょう、だってわたし、永●町と霞●関に向かって言ってますもの!」
と鼻息荒く私。

では、現代語訳を見てみましょう。

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祇園精舎の鐘の音は、諸行無常の響きをたてる。釈迦入滅のときに白く変じたという娑羅双樹の花の色は、盛者必衰の道理を表している。ただ春の夜の夢のように儚いものである。勇猛な者もついには滅びてしまう。全く風の前の塵と同じである。驕り高ぶった人も、末永くは続かない。外国の例を探してみると、秦の趙高や唐の安禄山など、これらはみな旧主先皇の政治にも従わず、楽しみを極め、人の諫言も聞き入れることもなく、天下の乱れることを悟らずして、民衆の嘆き憂いを顧みなかったので、末永く栄華を続けること無しに滅びてしまった者どもである。近く我が国にその例を探してみると、承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、これらは皆驕れる心も猛悪なこともそれぞれに甚だしかったが間もなく滅びてしまった。ごく最近では六波羅の入道、前太政大臣平朝臣清盛公と申した人の驕り高ぶり横暴な有様は言葉で言い表せないほどである。

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「平家物語」では末法の世に世界が地獄と化していく有様が描かれています。あらゆる人がその運命に巻き込まれることを免れない。源氏物語では、地獄というのは個人の内面の事件であったけれども、平家物語においては地獄は社会的事件となっています。仏教において、人間の苦悩は欲望が原因でした。平家物語において世界を包んだ大地獄の原因は何であったか。それは清盛の並外れた「煩悩」が、「我執」が原因だったとこの作者は言っています。(梅原猛「地獄の思想」より)

毎日の新聞、ニュースを見ると、私はいつもこのことを思い出すのです。だからこそ、平家物語が昔話に思えないのです。

授業で学んだ「祇園精舎」を、劇場でもう一度じっくり聴いてみて下さい。

そして、今回は清盛の最期の章段もやります。併せて聴いていただくことで何かが見えてくるかも知れません。


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これはもう語りではない、古典の言葉が躍動する!分かる!美しく衝撃的な舞台
「平家物語 語りと波紋音」第3回公演
祇園精舎 足摺 千手の前 入道死去
語り:金子あい 波紋音:永田砂知子

構成・演出:金子あい 音楽:永田砂知子 美術:トクマスヒロミ 照明:横原由祐 
音響:黒沢靖博 舞台監督:寅川英司+鴉屋 衣装:細田ひなこ 主催:平家物語実行委員会 


【日時】2012年12月6日(木)昼の部14:00開演/夜の部19:00開演(上演時間75分)
【会場】座・高円寺2 http://za-koenji.jp JR中央線 高円寺駅 北口 徒歩5分

【チケット料金】 前売3,700円/当日4,000円/高校生以下1,000円(全席自由)
  ※当日券は開演1時間前より販売。高校生以下割引は平家物語実行委員会のみで取扱。
  ※未就学児のご入場はご遠慮下さい。※開場は開演の30分前。

【チケット取扱・お問合せ】
 平家物語実行委員会:090-6707-1253 heike@parkcity.ne.jp

 ちけっとぽーと:03-5561-7714(平日10:00〜18:00)http://www.ticketport.co.jp/
 渋谷店(SHIBUYA109 2F)池袋店(池袋パルコ6F)銀座店(銀座ファイブ1F)
 東京店(大丸東京11F)新宿店(伊勢丹会館B1F)吉祥寺店(アトレ吉祥寺B1F)
 横浜店(横浜駅東口ポルタ)大宮店(ソニックシティホール)